2012/06/11

パンデピス芸術            マルケッタ・マチュドヴァさん




ちょっと前の話になりますが、フェルベールさんの店を訪れたとき、あるお菓子に目が留まりました。


レースのような、繊細にデコレートされた大きなハート型のパンデピス。



大きなハート型パンデピス。(意匠登録済み商品)



小さなグラス・ロワイヤルの微細な点々の跡をたどると、職人の手の動きが目の前に浮かんできたぐらいでした。

ありえない、こんなものを作る人はいないでしょうと、しばらく躊躇ってから「これって、手作業ですか、機械ですか」。フレッシュな果物しか扱わない、徹底的な職人でいらっしゃるフェルベールさんの店でこんな質問を口に出すこと自体、振り返ってみるとちょっぴり恥ずかしいですが・・・)。


「これはここで作られているものではなく、ルーマニアの方がアルザスで作っているんですよ。」

ふううん、ルーマニアの方がアルザスでパンデピス(=アルザス郷土菓子)を作っているのですか。本当に少し混乱しました。でもやはり、とりあえずはこの大きなレースのハートを見た限り、高価なこともあって自分のものにしてこの店を出ることはとても考えられませんでした。

作品の裏のラベルには「メルケッタ・マチュドヴァ」と聞いたこともないアルザスの村の名前が。

それから、1ヵ月後の話。

イースターの時にコルマール市の旧市街でフェアが行われましたとき、家族一同でお出かけしたら、会場の入り口で思いがけずあの細かなパンデピス・芸術に再会しました。








(マチュドヴァさん意匠登録済み商品)



(マチュドヴァさん意匠登録済み商品)



(マチュドヴァさん意匠登録済み商品)


そこには、ブースの一隅でこつこつと絞り袋を手に持ってパンデピスの上にアイシングを絞っているマチュドヴァさんの姿がありました。



マルケッタ・マチュドヴァさん






話しかけてみますと、ルーマニアではなくチェコの方だと分かりました!

「ええっ、ルーマニア出身と言われたんですか?」

冗談半分でひどくショックを受けたふりをして私に聞きましたが、フランス人がアルザスの人をドイツ人と同一視すると同じようなものでしょうね。お気持ち分かります。すみません。

話が進みますと、実はマチュドヴァさんのパンデピス芸術はチェコの伝統の一つだそうで、おばあちゃん、母から娘へと受け継がれているらしいです。

自分のおばあちゃんから直接に受け継がれた模様もあれば、レース模様のように自分で創作したものもあるそうです。

飾りばかりに惹かれますが、アイシングと生地の材料にもとてもこだわっていて魅力的なお菓子です。アイシングには化学物質が一切入っておらず粉糖・卵白・レモン汁といったシンプルかつ乾燥が早いグラス・ロワイヤルです(分量はもちろん、企業秘密で意匠登録されているそうです・・・)。パンデピスにも添加物が入っていないごく自然の素材で作られたお菓子です。


「なによりも私の息子が食べるお菓子ですから、できるだけ自然の素材だけでつくりたいですね。」

その気持ちもよく分かります。

白のアイシングにこだわらず色素をどんどん使う人もいますが、マチュドヴァさんの作品には色がついているものは本当に少ないです。だから、とても品があるのかもしれないと思いました。



パンデピスのデザインを創作するだけでなく、オリジナル型抜きもいろいろ出しています。
『アルザス・スイーツ』のお気に入りはもちろん「アルザス人夫婦」です。



マチュドヴァさんのお菓子を見ているうちに、いったい食べるお菓子でしょうか、飾るお菓子でしょうか、とお菓子の在り方について考えさせられます。



その日、鳥の形をしたパンデピスを二つ買いました。

一口、二口、三口で飲み込んだうちの子供たちにははっきりと食べ物に見えたでしょうが、私はやっぱりまだしばらく飾っておきたいなあと思います。

もちろん、子供の手が届かないところにね。












お店情報

Marketa Macudova
67350 Uberach
HP http://www.paindepices.net/menu/pain-d-epices-et-moi