2012/03/02

アルザスのパン スブロ (subrot)



スブロは、アルザス地方でのみ作られる、この土地独特のパンのひとつです。


フランス革命時のパン職人の紋章にブレッツェルと一緒に使用されていることから、相当歴史のあるパンだと考えられています。


地方原語・アルザス語に由来し、 「一文パン」を意味しています。スーヴェカまたスーヴェカラなど他に いろいろ別名があります。

このパンが生まれた当時の貨幣価値、1文という値段でこのパンが売られていたと考えられます。


一説には、それ以前から存在するとも言われ、現存するこのパンとの共通点は、天然酵母ルヴァンを使用し、手で簡単にちぎって食べられることのようです。










スブロは素朴なパンですが、成形はなかなか凝っています。


研修先の熟年職人、クリスチアンさんの手本をごらんください。

最終的な形はとても真面目そうな映像になりましたが、実はクリスチアンさんはとても面白い職人さんでしょっちゅう冗談を言ったり、急に姿を消したりして編集にいろいろ苦労しました。お気づきと思いますが、ここもやはりラジオが流れています。










成形ですが、パン生地2枚を重ね、1枚の片面に脂肪分を下塗りし、小麦粉を振ります。2枚重ねた生地をひし形になるように100gごとにクープ・パートで切ります。切り分けた生地はたてに(=つまり切り目のところを上に置き、)端っこのところを少しくっつけて二つずつパンマットに並べて第二次発酵を行います。

焼き上がりは、内面に塗りこんだ脂肪分の働きで生地がふっくらとし、二つに割れてパンの形を特徴づけています。適度に不揃いの気泡もこのパンの特徴の一つです。サンドイッチにはバケットよりスブロの方が美味しいと、クリスチアンさんは言います。

真ん中の油分が、生地に艶を与えて、生地に違う色をつけます。また、成形のときに生地の底が粉についていますので、焼きあがるときに、この艶のある部分とつながったコントラストが生まれ、美しいスブロになるといいます。

油の種類ですが、職人によっていろいろです。サラダ油、バターあるいはラード。ちなみに、クリスチアン流はラードです。油を入れすぎると、生地が完全に剥がれてしまうので適度につけるように気をつけているそうです。

ひし形に切ったものを二つくっつけて焼いたものが、1斤のパンとなるわけですが、買うときに、半分とお願いすると、店員さんが半分にちぎってくれます。そのちぎり方ですが、縦でなく横にちぎります。どうも・・・職人の間ではスブロを「処女のお尻」に例えることもあります(さすが男の世界です)。ですから、切り方も、お尻を真ん中に割ることはしません・・・。


こういった面白いパン職人の民俗学についてはMouette Barboff氏のとても面白い本Pains d'hier et d'aujourd'hui(HOEBEKE、2006年、Paris)があります。フランスの素朴で伝統的なパンがレシピつきで紹介されています。職人の立場と文化を重視する本ですから、大変貴重です。おまけに、美しい写真がまるでパンを芸術作品に見立てています。表紙のアーティチャークのパンは特に印象的です。近年このパンをブリオッシュ生地で出した有名なお菓子屋さん、パリのPain de Sucreがありますが、もしかしたらこの本からヒントを得たのでしょうか・・・。